平成9年度は、親水性ならびに疎水性モノマー単位の連鎖配列が異なるグルコース含有両親媒性ビニルエーテル(VE)共重合体を精密合成して、モノマー配列が高次構造形成挙動に与える影響を検討し、以下の成果を得た。 1.イソプロピリデン基で水酸基を保護したグルコース含有VE(IpGluVE)とイソブチルVE(IBVE)を仕込み比20/100で用い、CH_3CH(OiBu)Cl/ZnI_2系開始剤によるリビングカチオン共重合により単分散の前駆体共重合体を合成した。本リビング重合系におけるモノマー反応性比を見積もったうえで、共重合体が比較的ランダムな連鎖配列を有することを実験的に検証した。これを統計的共重合体とし、連鎖配列の異なる対照用試料として、単分散ブロック共重合体を逐次リビング共重合により合成した。最後に、トリフルオロ酢酸:水混合系による脱保護基反応を行い、分子量と組成比がほぼ同一で、連鎖配列のみ異なる両親媒性共重合体を合成することに成功した。 2.IpGluVEセグメントの良溶媒であり、IBVEセグメントの非溶媒であるDMSO中での緩和時間測定の結果、ブロック共重合体のIBVEセグメントの運動性は著しい温度依存性を示し、さらに、同じ選択溶媒であるDMF中でのGPC測定において、統計的共重合体が単分子溶解するのとは対照的にブロック共重合体が多分子ミセルを形成することが示唆された。光散乱測定により、ブロック共重合体がDMF中で分子量474万、慣性半径31.2nmの球状ミセルを形成していることを明らかにし、より凝集しやすい連鎖配列であることを実験的に示した。 3.さらに、両親媒性共重合体より調製したキャスト膜の表面構造の外部環境応答挙動を、膜表面の親水性の評価により調べた。水への浸漬と空気中でのアニーリング処理を繰り返しても統計的共重合体の表面構造は大きく変化しないのに対し、ブロック共重合体では外部環境に応じて表面構造の再構築が誘起されることを確認した。
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