本研究では、分子認識機能を有するタンパク質であるモノクローナル抗体をターゲットとし、その特定部位に光機能性非天然アミノ酸を導入することで、分子認識機能と種々の光機能を合わせ持つ新しい機能性高分子の合成を目的とした。 まず、抗リゾチームラクダ抗体の抗原結合ドメインをコードした遺伝子を作製し、大腸菌のin vitroタンパク質合成系における発現を検討した。タンパク質合成反応液を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法およびウエスタンブロット法により分析した結果、予想される分子量13kDa付近に合成された抗体が確認された。また、適切な酸化還元環境にすることで、効率良くジスルフィド結合を形成させることも可能であった。さらに、FITC標識リゾチームを用いた蛍光偏向度測定から、抗原結合活性を定量的に測定することもできた。 次に、非天然アミノ酸の部位特異的な導入を検討した。拡張遺伝コードCGGGを導入した抗体の遺伝子を作製し、非天然アミノ酸で化学的にアミノアシル化されアンチコドンにCCCGを持ったtRNAとともにin vitroタンパク質合成系に加えることで、抗体の特定部位へ非天然アミノ酸の導入を試みた。ウエスタンブロット法による分析から、目的の非天然アミノ酸の導入されたタンパク質が合成されていることが確認された。 続いて、光機能性非天然アミノ酸を導入することにより抗体の人工機能化を検討した。まず光脱離性の保護基をもったアスパラギン酸o-ニトロベンジルエステルを抗体の99位および121位のアスパラギン酸部位へ導入した。そのうちの99位に導入したものは、そのままでは全く活性を示さなかったが、紫外光照射によりニトロベンジルエステルを脱離させることで、元の抗原結合活性を完全に回復させることができた。今後さらに種々の人工機能アミノ酸を導入することで、抗体に様々な人工機能を付与できるものと期待される。
|