本研究の目的は、生体膜類似構造及び組織化構造由来の物理・化学性質を示し、機能性薄膜材料となり得る人工脂質二分子膜とフラーレンとをハイブリッド化した新規な材料の開発にある。我々は、三本鎖型フラーレン脂質(1)を分子設計、合成し、1キャストフィルムの水中における膜相転移挙動、フラーレン部位の電子移動制御と酸化還元応答の支持電解質依存性について検討を行った。 1キャストフィルムは水中において気相中同様、脂質二分子膜の基本的性質である相転移を示すことが示差走査熱量分析(DSC)及び紫外可視吸収スペクトルの温度依存性よりわかった。主転移温度は34.8°Cでサブ転移温度は47.3°Cである。 BPG電極上の1キャストフィルムの水中における酸化還元挙動は、膜相転移に強く依存することがわかった。また、相転移温度以上(55°C)と以下(10°C)の温度を繰り返すことにより、酸化還元応答のスイッチング(ON-Off)が可能であることがわかった。さらに酸化還元応答の支持電解質依存性測定をDifferential Pulse Voltammetry測定にて行い、C_<60>^<・->と対カチオン(X^+)との会合定数(K)と 会合数(n)の算出を行った。その結果、テトラグチルアンモニウムイオン(K=1X10^8M^<-1>)の方がテトラメチルアンモニウムイオン(K=20M^<-1>)よりC_<60>^<・->とのイオン対を形成しやすいこと、C_<60>^<・->は対カチオンと1:1のイオン対を形成することがわかった。
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