本研究では、ポリマーブレンドの相分離過程に与える温度勾配の効果に注目し、その作用機構の基礎的解明を目的とした。具体的には、ポリスチレン/ポリブタジエンブレンドの希薄溶液(溶媒:フタル酸オクチル、ポリマー濃度4%程度)に温度勾配を付与して、相分離過程の観察を行った。前年度は、組成50/50(重量比)のブレンド試料を用いて、温度勾配下での相分離過程において従来の相分離過程には見られなかった特徴を多々明らかにし、さらに温度勾配の付与する度合を種々変化させて、温度勾配によって濃度度勾配が誘発される現象(Soret効果)が、対流パターン形成に支配的である可能性が示唆された。本年度はこれらの結果を踏まえて、温度差の拡張、温度差と相分離温度との相対関係の変化等の操作を行うことで、本系の非線形性の特徴を明らかにすることができた。 1) 温度差の拡張 前年度は温度差はすべて10℃で行ったが、今年度はこれを最大30℃まで拡張して実験することができた。その結果、対流パターン自体は類似であったが対流セルの時間発展様式は顕著に影響を受け、温度差の重要性を示すことができた。 2) 温度勾配によって濃度勾配が誘発される現象(Soret効果)の実験による検証 ポリスチレン/フタル酸ジオクチル溶液では、温度勾配によって濃度勾配が誘発され、低温側にポリスチレンが濃縮されることが、NMRによる定量的濃度分析によって確認された。一方、ポリブタジエン/フタル酸ジオクチル溶液については、Soret効果は確認されなかった。 3) 温度差と相分離温度との相対的関係の変化 上述の実験では、相分離温度と対称的に温度差を付与していた(例えば相分離温度55℃の試料に上板50℃、下板60℃に設定した)が、ここでは温度差と相分離温度との相対関係を種々変化させて特殊環境場のモルホロジー制御のバリエーションをつけることを試みた。具体的には、非対称的な温度差の設定や上下温度両方とも相溶するように温度設定を行った。前者の場合、対流パターンが全くことなる様相を呈し、この操作は本質的に重要な因子を含んでいることが示唆された。一方、後者の場合は、前述のSoret効果によって相分離が誘発された後、それがきっかけとなりさらに対流へと発展した。観察されたパターン自体はこれまでの様相と大きく異なることはなかった。
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