結晶性高分子の形態制御を目的とし、一方向性固化(directional solidification)(DS)という熱処理法について検討した。DS法とは、温度勾配下に試料を置き、固(結晶)/液(溶融)界面を発現させた後、その試料をゆっくりと高温側から低温側へ一定速度Vで移動させることにより、界面を一方向に移動させ、一方向固化(結晶化)させる手法である。 試料として、ポリエチレングリコール(分子量2x10^4)を用いた。温度勾配ステージは、顕微鏡下に設置できるものを自作し、その温度対距離の関係は、高温-低温チャンバー間でほぼ直線的(勾配2.98℃/mm)であった。試料の移動にはステッピングモーターを用い、V=0.36〜16μm/sの範囲で変化させた。そして、結晶/溶融界面の形状および結晶フィブリルの配向状態を反射型光学顕微鏡を用いin situ観察した。 通常の均一冷却では、一次核の発生と、二次核生成により等方的な結晶が成長する。しかしDS法では、球晶構造は現れず、結晶フィブリルが一方向に比較的並んだ、一つの大きな結晶(単結晶とは異なる)が発現した。これは、一次核生成が温度勾配の存在によって大きく制限され、二次核生成が勾配の方向に優先的に起こったために発現したものであると考えられる。 界面の形状は、移動速度Vに依存して変化した。V=0.4μm/sの場合、移動方向に対して垂直でフラットな界面が発現したが、この形状は、Vの増加とともに不安化し、V>0.8μm/sでは周期的な凹凸界面が現れた。これは、Vの増加が、界面をより過冷却の状態へともたらすため、界面形状不安定性(Mullins-Sekerka Instability)が発現したことが原因と考えられる。 以上の結果から、結晶性高分子を一方向固化させることで、その配向制御、ならびに結晶/溶融界面の不安定化による形態制御が可能である事がわかった。 今後、結晶性/非結晶性高分子ブレンドについて、DS法により発現する結晶モルフォロジーを調べていく予定である。
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