研究概要 |
ポリマーアロイにおける結晶性高分子の形態制御を目指し、一方向性固化(directionalsolidification)(DS)について検討した。DS法とは、温度勾配下に試料を置き、固(結晶)/液(溶融)界面を発現させた後、その試料を高温側から低温側へ一定速度Vで移動させることにより、界面を一方向に移動させ、一方向結晶化させる手法である。試料として、ポリエチレングリコール(PEG,分子量2x10^4)の一成分系、PEGのトルエン溶液、およびPEGのジブチルフタレート溶液を用いた。温度勾配ステージは、顕微鏡下に設置できるものを自作した。 PEGの溶融一方向結晶化では、結晶フィブリルの方向が比較的そろった結晶(単結晶とは異なる)が観られた。これは、温度勾配の方向に結晶が一方向成長したために形成されたものである。また、移動速度(=結晶化速度)(V)の増加とともに、界面形状はフラットなものから凹凸状へと変化した。これは、成長先端で不純物の拡散により濃度場が形成されるために現れる界面形状不安定性(Mullins-Sekerka Instability)が原因と考えられる。ただし、この不安定性による結晶パターンの変化は、一成分系では顕著でなかった。それに対し、トルエン溶液では、界面の形状が、移動速度Vに依存して明確に変化した。例えば、PEG/Tol(70:30重量分率)では、周期的な樹状構造が現れ、V増加とともに幹の間隔(λ)がλ∝V^<-0.92>に従って減少した。このVに対する指数は、金属や低分子の有機化合物結晶では-0.19〜-0.75という報告値があり、今回得られた値は、それらとは異なり、Vに対する依存性が強い事がわかった。これは、おそらく高分子結晶の持つ構造の複雑性(階層性)が反映されているものと考えられる。 以上の結果から、結晶性高分子を一方向固化させることで、その配向制御、ならびに結晶/溶融界面の不安定化による形態制御が可能である事がわかった。
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