水面展開膜は非対称な構造を持つ高分子超薄膜である。水面展開膜に分散した非線形光学活性な両親媒性色素はその配向が膜に垂直方向へ制御され、第二高調波発生(SHG)が見られることが既に明らかにされている。本研究では、超薄膜による高効率な光一音響波変換の実現をはかり、光音響分光法(Photoacoustic spectroscopy:PAS)による水面展開膜の特性解析を試みた。水面展開膜にPASを適用するときには、基板への熱の拡散が事実上存在せず(Selfーstanding)、また膜厚が熱拡散長に対して著しく小さい(超薄膜)という、通常の系に比較して非常に特殊な条件が成立する。この条件下では理論的解析に適用するモデルを単純化できるので、薄膜の性質(熱的性質、色素の分布状態など)が光音響信号に与える影響を詳細に検討することが可能である。 本年度は高分子超薄膜に特化したPAS測定装置の作成を行い、水面展開膜に分散した色素の分散・配向状態を調べた。水面展開膜のベースとなるポリマーにはPMMAを用い、色素にはアゾ系化合物であるDisperse Red l(DRl)、ヘミシアニン長鎖誘導体(C22Hem)、ルテニウム錯体長鎖誘導体(RuC16)を用いた。DRlを分散した膜の場合は色素溶液の吸収スペクトルに対応した光音響スペクトル(PAスペクトル)が得られた。しかし、C22HemとRuC16の薄膜では、溶液に対応するPAスペクトルは得られなかった。C22HemとRuC16は両親媒性色素であり、膜表面に配向して局在することがSHGの測定などから明らかにされている。今回2つの色素を分散した薄膜から得られた異常なPAスペクトルは、両親媒性の色素の界面での配向や凝集状態を反映していると考えられる。 本年度の研究では、極限的に薄い高分子薄膜に由来するPAスペクトルが均一溶液の吸収スペクトルと一致しないことを見い出した。今後より定量的な取り扱いを試みることで、高分子超薄膜の光一音響信号変換について多くの価値のある知見が得られると期待できる。
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