水面展開膜は非対称な構造を持つ高分子超薄膜である。水面展開膜に分散した非線形光学活性な両親媒性色素はその配向が膜に垂直方向へ制御され、第二高調波発生(SHG)が見られることが既に明らかにされている。本研究では、超薄膜による高効率な光-音響波変換の実現をはかり、光音響分光法(Photoacoustic spectroscopy:PAS)による水面展開膜の特性解析を試みた。水面展開膜にPASを適用するときには、基板への熱の拡散が事実上存在せず(Self-standing)、また膜厚が熱拡散長に対して著しく小さい(超薄膜)という、通常の系に比較して非常に特殊な条件が成立する。この条件下では理論的解析に適用するモデルを単純化できるので、薄膜の性質(熱的性質、色素の分布状態など)が光音響信号に与える影響を詳細に検討することが可能である。初年度は高分子超薄膜に特化したPAS測定装置の作成を行い、PMMAの水面展開膜に分散した色素の分散・配向状態を調べ、極限的に薄い高分子薄膜に由来するPAスペクトルが均一溶液の吸収スペクトルと一致しないことを見い出した。 本年度はポリマーにはP0ly(maleic anhydiride-alt-1-Octadecane)(PMAO)を用い、色素には芳香族アミン部位を持つアゾ系化合物であるDisperse Orange 3(DO3)を用いて、PMAO水面展開膜表面へのDO3の吸着について検討した。一連の実験からDO3のPMAOへの吸着では、プロトン化したDO3のアミン部位とPMAOの加水分解によって生じたカルボン酸アニオンとのイオン的相互作用が大きな役割を果たしていることが明らかになった。 今後はより定量的な取り扱いを試みることで、高分子超薄膜の光-音響信号変換について多くの価値のある知見が得られると期待できる。
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