研究概要 |
宇宙往還機の設計のためには,衝撃風洞やアーク加熱風洞等の高エンタルピー風洞を用いて,極超音速飛行環境における空力特性及び空力加熱率を見積もることが必要である.そのためには,これら高エンタルピ風洞の流れの特性及びメカニズムを解明することにより,これらの風洞の性能評価法や測定値更正法を確立する事が欠かせない.しかるに,質量分析や分光法によるこれらの風洞流れの測定結果は,既存の巨視的・現象論的理論によっては説明できていない.このような高エンタルピー風洞流れの物理的メカニズムを解明するためには,理論的手法を非経験的・分子論的立場から構築することが必要である.本研究はこれを試みるものである.本研究期間における研究実績は以下の通りである. 高エンタルピー風洞流れ等の急速膨張流において重要となる分子回転緩和特性を解析する目的から,古典的分子衝突解析を行い回転遷移速度定数を推算した.推算された遷移速度定数を分光測定による実験値と比較した結果,古典的手法では遷移速度定数を過大に見積もってしまうことが判明し,量子論的取り扱いの必要性が示唆された.一方,300K〜10,000Kの温度範囲での妥当性が検証済みの遷移速度定数実験値を用いて,膨張流中の回転流中の回転緩和過程をマスタ方程式によって厳密に解いた結果,分子回転の凍結現象や,回転分布の非ボルツマン分布が捉えられた.その結果は,過去の実験結果に良く一致した. 一方,風洞流れにおいて同様に重要となる分子振動緩和について,量子論的分子衝突解析に着手した. 本研究の成果は,流体力学講演会(平成9年9月,於札幌),米国航空宇宙学会航空宇宙科学会議(AIAAAerospace Sciences Meeting,平成10年1月,於米国リノ),宇宙への低密度ジェットにおける非平衡現象討論会(Colloquium on Nonequilibrium Phenomena of Low-Density Jet in Space,平成10年2月,京都教育大学)において発表され,良好な評価を受けた.さらに米国航空宇宙学会の論文誌AIAA Journal of Thermophysics and Heat Transfer等に投稿する予定である.
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