本研究ではイオンビーム型ならびにレーザーブレークダウン型の原子状酸素発生装置を用いて、低地球軌道環境における高分子薄膜の表面特性の変化について研究を行ったものである。研究初年度に当たる平成9年度はポリイミド薄膜に対する原子状酸素の反応の並進エネルギー依存性などについて研究を行った。その結果、以下のようなことが明らかになった。 (1)原子状酸素とポリイミドの反応性における運動エネルギー依存性を調べるためにイオンビーム型原子状酸素発生装置を用いてポリイミド薄膜の質量変化をin-situに測定した結果、ポリイミド薄膜の質量変化は原子状酸素の運動エネルギーと関連しており、30eV以下のエネルギーでは原子状酸素の吸着によると思われる質量増加が、30eV以上では逆に質量減少が認められた。 (2)原子状酸素を照射したポリイミド薄膜のXPS分析からは高エネルギーの原子状酸素を照射した場合にはカルボニル基やODAの分解が顕著に観察された。 これらの結果は運動エネルギーの増加に伴い、化学反応のみではなく、物理的なスパッタリングによる効果も加わるためであると思われる。本研究ではビームフラックスが小さいため原子状酸素とポリマー表面の反応の初期過程を模擬している事になり、多量の酸素が表面に吸着した定常状態での反応とは異なる可能性がある。表面吸着酸素量が少ない場合には主鎖の切断が抑制されるという報告が最近なされている事から、これが本研究で質量減少が見られなかった原因であると推定される。 以上のような結果をもとに次年度は高ビームフラックスでの同様な実験を繰り返すことにより反応の詳細を明らかにしてゆくとともに、グラファイト等の炭素系材料についてもその表面性状の変化を研究する予定である。
|