宇宙利用の大型につれて宇宙機の大電力化が進展し、高電圧での電力運用が必至となっている。宇宙機が高電圧を持つと、普通その電圧のほとんどが周辺プラズマに対して負になり、宇宙機内の接地点である構造体は負電位をもつ。しかし、宇宙機表面で放電が発生すると、宇宙機に周辺プラズマから大電流が流れ込み宇宙機の電位は過渡的に変化する。放電前の定常状態では熱制御材等の宇宙機表面の電気絶縁面は周辺プラズマによって帯電してほぼゼロ電位をもち、その厚さと面積に応じて正電荷を集めてコンデンサとして機能しており、宇宙機表面全体で大量の電荷を保持している。一旦宇宙機表面のある一点で放電が発生すると宇宙機に正の放電電流が流れ込んで、宇宙機電位を一時的に正側に押し上げる。その時、放電をおこしていない表面の電位もそれにつられて変化し、表面の正電荷に周辺プラズマ中の電子が引き寄せられて表面の電荷を中和するような電流が流れこむ。宇宙機のある点で放電が発生した時にどれくらいの電流が宇宙機に流れるかは、このような宇宙機と周辺プラズマの動的相互作用によって規定されることになり、プラズマの応答が早けれは宇宙機のある一点での放電が宇宙機の全表面に蓄えられている電荷の放出につながりかねない。 今年度は上に述べたような現象の解明を2次元のプラズマ粒子シミュレーションで行った。2次元計算であるので、実際の実験を同一の空間スケールでかつ電子/イオンの質量比も現実と同じものを使ってシミュレーションを行うことができた。実験で測定された宇宙機表面電位の変化をシミュレーションパラメータとして入力し、シミュレーションで求められたプラズマの応答が実際に測定されたような放電電流波形を与えるかについて定量的な検討を行った。シミュレーション結果から、表面近傍の中性ガスのわずかな電離がプラズマ応答に大きな影響を及ぼすことがわかった。
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