キンギョソウの2つの系統HAM2とHAM5はともにCHSをコードする色素合成遺伝子のブロモータにトランスポゾンTam3を配置した対立遺伝子をホモ接合型で有している。Tam3は高温(25℃)に対して低温(15℃)での切り出し頻度が1000倍高い。従って、低温では両者ともに斑入り形質を現す。一方、高温のHAM2は花弁に赤いバックグラウンド色が観察されるが、HAM5は白色花弁である。今回、この高温での花色発現の違いとTam3の温度依存性転移との関連性をCHS遺伝子の発現に着目し調査した。 ノーザンハイブリダイゼーションの結果、HAM2とHAM5の違いはCHS遺伝子の発現量の差によるものであることが判明した。両系統のCHS遺伝子座に挿入したTam3の切り出しの挙動は、ともに低温で著しく活発になるが、高温では抑えられていた。また、CHS対立遺伝子の構造はTam3挿入部位を含め両系統で差は見られなかった。niv遺伝子の転写開始点も両系統とも野生型と同一であった。以上の結果より、HAM2とHAM5の高温での花色形質の違いは、nivの転写活性に依存し、その制御にはトランス因子が関与することが示唆された。 このCHS対立遺伝子のプロモーター活性をトランジェントアッセイにより調査した。CHSプロモーターのTam3挿入部位(転写開始点より71bp上流)より下流の配列だけではniv遺伝子の転写が起こらなかった。CHS遺伝子の転写は、Tam3の2658bpから721bpの間で最も活性化された。一方、721bpから265bpの間にはその活性を下げる領域があり、下げ幅はHAM2に比べHAM5で著しいことがわかった。このことから、当CHS対立遺伝子の転写はプロモーター域に存在するTam3の内部配列がシス因子として機能していると推定された。
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