今年度においては葉内亜鉛濃度の減少によるイネ葉内のカーボニックアンヒドラーゼ活性の低下程度を探るとともに、亜鉛イオン減少がカーボニックアンヒドラーゼ活性に直接影響を及ぼしているのか、またはmRNAの発現の段階で制御しているのかをノーザンハイブルダイゼーション法を用いて検討した。また、気孔底から炭酸固定酵素サイトまでの"二酸化炭素の流れ"を安定同位体の炭素(13C)を使用することによって算出し、カーボニックアンヒドラーゼ活性低下が光合成にどのような影響を及ぼすかを検討した。その結果、 1.葉内の亜鉛濃度の減少につれてカーボニックアンヒドラーゼ活性は低下し、最大14%まで低下した。 2.カーボニックアンヒドラーゼ活性の低下の影響は、気孔拡散抵抗や炭酸固定酵素サイトの炭酸固定抵抗には現れなかった。また光合成もあまり変化しなかった。 3.カーボニックアンヒドラーゼ活性の低下につれて気孔底から炭酸固定酵素サイトまでの二酸化炭素の移動抵抗は増大し、最大で正常葉の2倍の値になった。また二酸化炭素の移動抵抗の全抵抗に対する寄与率も増大した。カーボニックアンヒドラーゼはクロロプラスト内に偏在することから、クロロプラスト内の二酸化炭素の移動に貢献していると考えられた。 4.一般に報告されているカーボニックアンヒドラーゼ活性とリブロースビスホスフェートカルボキシラーゼ活性との協調性は亜鉛欠乏イネにおいては見られず、カーボニックアンヒドラーゼ活性だけが低下していた。 5.イネ葉内の亜鉛濃度の減少につれてカーボニックアンヒドラーゼのmRNAの発現は低下していた。またその低下程度は活性とほぼ同じで、発現の段階での制御を受けていると考えられた。
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