1. 稲科作物の開花時における葯の裂開の引き金を明らかにする目的で、開花受粉する二条大麦(西海皮24号)を材料として、様々な刺激が葯の裂開に及ぼす影響を調査した。穎花の外穎を人為的に除去すると、葯の裂開が誘発された。この誘発は、外穎を除去する時に、雌雌ずいの基部に与えられる物理的な刺激によるものであることが明らかとなった。 2. 水稲の開花直前の穎花を採取し、異なる湿度条件下で外穎を除去し、湿度環境の違いが葯の裂開に及ぼす影響を調査した。その結果、乾燥条件が葯の裂開を阻害することがわかった。このことから、乾燥による葯壁の反り返りは葯の裂開の起動力ではない。 3. 葯の裂開過程における花粉の膨張の働きを明確にするために、開花前日の葯を輪切りにし、一部の小片からは花粉を取り出し、他の小片はそのままで、水に浸漬した。その結果、花粉を持つ小片ではセプタムの裂開が認められたが、花粉を取り除いた小片では認められなかった。この結果から、花粉の膨張がセプタムの崩壊の起動力である。 4. 未裂開ならびに裂開直後の葯をサンプリングし、葯内のカリウムの分布を調査したところ、裂開した葯では花粉粒が多くのカリウムを含んでいることが明らかとなった。このことから、花粉膨張の起動力の一つは花粉粒によるカリウムの集積であると考えられた。 5. 以上の結果から、稲科作物では開穎は穎花内のガス環境の変化や穎花への刺激ではなく、鱗被の膨張等、雌芯への物理的な刺激により葯の裂開を誘発するものと推察された。また、葯の裂開の起動力は、葯壁の乾燥ではなく、花粉の膨張であることが確認された。さらに、花粉粒膨張の原動力の一つとして、花粉間隙から花粉粒内へのカリウムイオンの移動があげられた。
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