本年度は、申請した研究目的のために、下記の基礎的課題に関わる資料収集、調査・分析を行なった。まず、明治初期に我が国に始めて設立された施設である精神病院の立地特性を、東京を対象地区として取り上げた。明治以降の史料、地図、文献等から、精神病という医療的定義と社会定義が、精神病院という空間施設とほぼ同じに導入され、受容されていった過程を史的に考証し、明らかにし得た。すなわち、近世において身分別に対応されていた心の病が、近代のごく初期に一方で有していた聖性を剥奪され、科学的に病気の分類範疇へ取り込まれる過程と、空間的な収容過程が同時に相互作用を及ぼしていたことが考察された。この成果については、都市計画学会(1997年度)において審査付き論文「東京都における精神病院の立地変遷に関する研究」として公表した。また、都市におけるオープンスペースの再編成過程と比較するために、農村地域でのオープンスペースと社会関係の変容過程の過程へも注目した。山梨県武川村を対象地区とし、高齢者への聞き取り調査、史料、地図などを用いて、近代以前から存在する社会的ネットワークの変遷と農村空間の変容過程が有する相互関係について考察した。当該地区における伝統的社会ネットワークの衰退が具体的に明らかにされた。この成果については、都市計画学会(1997年度)において審査付き論文「山梨県武川村における伝統的ネットワークの社会的・空間的特性に関する研究」として公表した。さらに明治初期に顕著に観察される近代化への都市と農村の社会的空間的整備の速度の違いとそれがもたらした社会的内軋轢を検討するために、明治17年現在の埼玉県で発生した秩父事件にも、社会的空間的側面からの考察を試みた。この成果については、現在発表準備中である。
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