近年、各地で半自然草原の変化、減少から、そこを生育地とする草原性草本植物の絶滅、減少が問題となっており、残された自生地を保全していく重要性が指摘されている。しかし、半自然草原を維持してきた火入れや刈り取りなどの慣行はもはや失われ、草原性植物の自生地として保全するには、それらの種の生活史や個体群動態、群落環境の維持に関する基礎的情報が不可欠である。 本研究では半自然草原における草原性草本植物のモデル植物としてマツムシソウ(Scabiosa Japonica)を材料とし、その個体群動態と生活史の解明及び、経時的な群落構造と光環境の変化から草本植物の衰退、消滅のメカニズムを解明することを目的とした。マツムシソウの種子は結実した当年は発芽せず、ほとんどは翌年6月-7月に発芽した。それ以降の発芽はみられず、マツムシソウは永続的な毎度種子をつくらないと考えられた。発芽個体はロゼット葉を入れ替えながら成長し、積雪前にも完全に地上部を枯らさず、ロゼット葉をつけたまま越冬した。繁殖個体は7月頃から抽だいするが、繁殖齢に至るまでには、発芽後2年、ほとんどの場合は3年以上経過していた。以上、マツムシソウは可変性二年草であり、繁殖に入るタイミングはサイズに依存していると考えられた。また、クマイザサの優古度の増加とともに群落の光環境は低下し、マツムシソウの個体数は減少する傾向にあった。
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