ヤマトクサカゲロウの音響交信解析について、これまでに行ってきた基礎的実験ではノイズの混入など改良すべき点が残されていた。今年度の新たな機材の購入により、よりノイズの少ない録音系の確立を目指したが、発生していたノイズを完全におさえることは出来なかった。これについては現在の環境では限界でもあるので、ノイズの除去についてはある程度のところで打ち切った。しかしながら以前に比べれば良好な解析を行うことができるようになり、各個体群の比較を行い種内タイプ間の違いについては確認できた。すなわちタイプAとタイプBの個体は異なる音響交信を行っており、個体群による違いは少なく、タイプの違いというものは安定した形質を示すことが示唆された。 これまでデータの無かった南方個体群の採集を試みたが、時期や天候の不運により多く採集できなかったため、西日本を中心とした個体群の解析は次年度に持ち越された。 DNAの塩基配列の比較解析については、ミトコンドリアにコードされているチトクロームオキシダーゼIおよびIIの領域部位のクローニングを行って、塩基配列を調べた。しかしながらクローニングによる解析は手順に手間がかかり、費用もかかるため多くの個体数を解析するのには不適当であった。講座で新規購入したDNAオートシークエンサーの性能が良かったために、途中からPCR産物のダイレクトシークエンス法に切り替えて解析を行った。シークエンスの結果はまだ一部の個体群でしか行っていないため、タイプ間の違いについては言及できないが、タイプの違いが遺伝的にも認められる傾向を示している。これについては来年度解析する領域をさらに増やすので、総合的に判定する予定である。
|