前年度までの成果から、糸状菌に対する高等植物の侵入抵抗性には細胞骨格の一つであるアクチン繊維が関与することが明らかになった。前年度にクローニングしたアクチン遺伝子(Act1〜3)のうち、Act3を過剰発現するプラスミドを構築し、パーティクルガンを用いてオオムギ子葉鞘細胞で一過的に発現させた。病原菌であるErysiphe graminisを接種した結果、菌の感染率は低下したものの金粒子導入時の傷刺激によって誘導される抵抗性を超える効果は認められなかった。一方、細胞内に大量に存在するとアクチン繊維を破壊するプロフィリンを過剰発現させると傷害抵抗性誘導が抑制された。以上の結果から、傷害によってもアクチンが関与する抵抗性が誘導されるが、その抵抗性はアクチンの過剰発現によって単純に増強されないことが明らかになった。したがって、侵入抵抗性発現にはアクチン繊維の構築状態の調節など、高次の制御が重要であることが示唆された。動物細胞では、RacGTP結合タンパク質がアクチンの構築状態を制御するとされている。そこで、前年度にクローニングしたタバコRac遺伝子のノーザン解析を行なった。この結果、Rac1〜4は病原菌あるいは非病原菌を接種すると発現量が減少あるいは増加し、病原菌接種と非病原菌接種ではその傾向が逆になることが明らかになった。今後は、Rac遺伝子を過剰発現する形質転換タバコを作出し、抵抗性発現や各種ストレス耐性に関する変化を解析する必要がある。
|