本年度はクズ群落とダイズ畑において野外調査を行い、カメムシタマゴトビコバチのトラップ誘因数の季節的消長を調べ本種の生活史を解明すると共に、寄主探索における飛翔行動の分析を行った。また、ダイズ畑において、誘因物質であるホソヘリカメムシの集合フェロモンの合成物を設置することによる寄生率向上の可能性も調べた。まず、カメムシタマゴトビコバチのトラップへの誘因数調査では、5月中旬からクズおよびダイズ畑で本種が捕獲された。その後、9月まで一週間当たり30頭以上が捕獲されたが、以降10月以降捕獲個体数は減少し、11月以降捕獲されなかった。この結果は昨年のものとほぼ一致しており、本種が11月〜5月に活動していないことを示唆している。次に、ダイズ畑において、異なる高さのところ(地上1m、2m、3m)にトラップを設置して、捕獲数を比較したところ、地上1mのところが最も捕獲数が多く、3mではほとんど本種は捕獲されなかった。また、風の強い日にはトラップ誘因個体はほとんどなかった。この結果から、無風あるいは弱風の時、地表1m以内の高さ、つまり植物の丈内の範囲で植物から植物へ飛び移りながら移動していると考えられた。熊本県西合志町にある九州農業試験場内のダイズ畑に誘因物質であるホソヘリカメムシの集合フェロモン合成物を設置してホソヘリカメムシ卵に対する寄生率を調べた。その結果、誘因物質を設置した直後は、誘因物質を置いた区画はコントロール区画に比べ探索蜂の個体数と寄生率が有意に高かった。しかし、2週間連続して誘因物質を置いた場合、2週間目に探索蜂個体数は急激に減少した。この結果から、長期間寄主に遭遇することなく寄主の手がかりであるカメムシの集合フエロモンを経験し続けると、寄生蜂はその物質に対して馴化し、その匂いに対する選好性を消失する可能性が示唆された。
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