カンキツbrown spot病は、欧米、中近東、オセアニア諸国を中心に発病し、近年重要病害の一つとして各国で大きな被害を与えている。我が国では現在まで本病の発病は報告されていないが、本病原菌の主要病原性因子である宿主特異的毒素を用いた感受性試験により、国内にも感受性を示す品種(イヨカン、ポンカン等)が多く栽培されていることが明らかとなった。そこで本病が国内で発病した際に迅速に対応し、また早期防除を行うために、本病害の感染機構における病原菌と宿主植物間の相互作用についての基礎研究を進めている。本研究においては既に、1)brown spot病菌と生成するエンド型ポリガラクツロナーゼ(endo PG)の単離、2)単離酵素のN末端配列とendoPGモチーフプライマーを用いたPCRによるendoPG遺伝子の部分増幅に成功した。本年度は、1)単離したendoPG遺伝子を用いた標的遺伝子破壊法によるendoPG欠損株の作製およびその解析、2)カンキツポリガラクツロナーゼ阻害蛋白質遺伝子(PGIP)のクローニングと全塩基配列の決定、3)カンキツ抵抗性遺伝子の一つであるリポキシゲナーゼ(LOX)遺伝子のクローニングに成功した。endoPG欠損株の作製については、単離した約800bpのendoPG遺伝子を形質変換ベクターに組み込み、brown spot病菌のプロトプラストを用いて形質転換を行った。この際、プラスミド中のendoPG遺伝子が菌ゲノム中のendoPG遺伝子と相同組換えを起こし(標的遺伝子破壊法)、形質転換体数の約10%の割合でendoPG欠損株が得られた。この変異体の一つについて組み換え様式を解析した結果、ゲノムのendoPG遺伝子領域に2コピーのプラスミド(endoPG遺伝子プラス形質転換ベクター)が挿入され変異を起こしたことが明らかとなった。現在、その変異体の酵素生成能の欠損を確認している。PGIP遺伝子は植物の細胞壁構成蛋白であり、endoPGと反応して宿主の抵抗反応をを誘導することが知られ、カンキツにおいてbrown spot病菌の生成するendoPGとどのような関係にあるかを知るため、PGIP遺伝子のクローニングを試みた。他植物からとられた既存のPGIP遺伝子のモチーフ部分をプローブにしたPCRの応用によりカンキツ品種ラフレモン、温州、イヨカンから開始、終始コドンを含む全域のゲノム配列(988bp)を決定した。また、RT-PCRを用いてラフレモンからLOX遺伝子を増幅し、その部分配列も決定した。
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