北海道東部の塩水湖であるサロマ湖、能取湖沿岸および瀬戸内海沿岸の塩田跡などにおいて、塩生植物であるアッケシソウ(アカザ科)を採集し、それらの内生菌フロラについて調査を行った。 その結果、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による表面殺菌を施した植物体茎部からは、不完全菌類であるAlternaria alternataなどのAlternaria属菌数種とStemphylium spp.およびCladosporium属菌が高い頻度で検出された。この傾向は、採集地が異なる試料間でもほぼ同様に認められた。瀬戸内海沿岸で採集したアッケシソウからは、AlternariaやStemphylium属菌の完全世代と考えられている子嚢菌類Pleospora属菌も高い頻度で検出された。また、瀬戸内海沿岸で採集した同じくアカザ科のハママツナやホソバハマアカザからも類縁菌群が検出された。 Alternaria Stemphylium Cladosporium属菌などのメラニン色素含有の暗色分生子を形成するdematiaceous fungiや、Alternaria、Stemphylium属菌の完全世代であるPleosporaがアカザ科などの塩生植物から優占的に検出されることは、イングランドやカナダの塩生湿地における研究調査からも云われている。一般にこれらの菌群は、宿主が健全なうちは葉などの表面に寄生している表生菌として知られており、多くは宿主の老化に伴い組織内に侵入するものと考えられている。しかしながら、今回の調査から、これらの菌類がアッケシソウなどのアカザ科の塩生植物に内生的に存在することが示唆され、外国の報告とも照らし合わせてみると、この関係は特異的でかつ普遍的な現象であることが示唆された。なお、植物種子についても調査したが菌は検出されず、グラスエンドファイトのような種子伝染はしないことが示唆された。
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