研究概要 |
既に得られている鉄欠乏条件下で強く発現するオオムギの遺伝子(Ids3)の機能解析を目標としました. Ids3遺伝子はそのコードするアミノ酸配列や鉄欠乏時の発現の特異性,イネ科植物での発現の差異によりムギネ酸生合成経路に関わる可能性が高いと考えられました.そこでこの遺伝子をパーティクルガン装置およびアグロバクテリウムを用いた方法によってイネに導入し,形質転換イネの作成を行いました.また,Ids3の5'上流領域の鉄欠乏特異的発現を引き起こすシスエレメントの検索も目指しました.平成10年度には,まず,この遺伝子のオオムギゲノム配列のうち,これまでわかっていた部分よりさらに上流側の塩基配列1.5kbを決定しました.この遺伝子をイネに導入し,再分化後,PCRでの導入遺伝子の確認を行い,現在,再生個体24系統を育成しています.得られた再分化個体を鉄欠乏条件で水耕栽培し,このイネの放出するムギネ酸類を形質転換を行っていないイネの放出するムギネ酸類と比較することでこの遺伝子がムギネ酸合成酵素遺伝子であるかどうかの検定を行います.Ids3遺伝子の5′上流領域の鉄欠乏特異的発現を引き起こすシスエレメントの検索として,Ids3の5′上流域領域とレポーター遺伝子であるGFP(GreenFluorescent Protein)遺伝子との融合遺伝子を作成しました.これをパーティクルガン装置を用いてタバコBY-2細胞やコムギ培養細胞に導入し,トランジェントな発現をみた実験では,この遺伝子の5′上流領域がイネ科植物だけでなく,双子葉植物でも鉄欠乏で発現を強く誘導することがわかりました.今後,さらに細かくしたこの領域を使って鉄欠乏特異的発現を誘導する領域の特定を行う予定です.
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