アルカリ領域でのSendaiとALPIの失活の様式を明らかにするために、両酵素を各アルカリpHで処理した。その結果SendaiはpH 12.0においても自己消化がみられず、活性の低下も生じなかった。しかしALPIはpH 11.0より高いpHで急激な失活および自己消化がみられた。 次に両酵素のアルカリ耐性の違いは構造変化の違いにあると考えられた。そこで自己消化を起こさないようにセリンプロテアーゼの不可逆的阻害剤であるDFP(ジイソプロピルフルオロりん酸)を反応させたSendai (DIP-Sendai)およびALPI (DIP-ALPI)を作製し、アルカリpHに曝したときの、分子内Trp蛍光の変化と円偏光二色性(CD)の変化を測定した。分子内Trp蛍光を測定した結果Sendai、DIP-Sendaiとは対照的にDIP-ALPIは速やかな蛍光強度の減少およびTrp残基の溶媒表面への露出を反映する最大蛍光波長の長波長側への移行がみられた。二次構造を反映する遠紫外CDスペクトルはDIP-Sendai、DIP-ALPIともに変化がなく二次構造は維持していることが示唆された。また三次構造を反映する近紫外CDスペクトルからも両者に三次構造の崩壊はみられなかった。これらのことから両酵素はpH条件に対応した高次構造を維持しており、その構造変化は可逆性を示すと考えられた。DIP-ALPIをpH12.0で変性させた後、pH7.0の緩衝液に対し透析したものについて分子内Trp蛍光、CDスペクトルを測定した結果、変性前の構造に戻っていることが示唆された。また変性前と同様にALPIによる分解っみられなかった。 以上の結果より、SendaiとALPIでは、分子内Trp蛍光の変化により分子表面領域における構造の変化に差があることが示唆されたが、CDスペクトルの変化により分子全体における構造の崩壊はみられなかった。このことから両酵素のアルカリ耐性の違いは構造変化に伴う自己消化を受ける部位(領域)の分子表面への露出の違いによるものであると示唆された。
|