本研究は、細胞質分裂を制御するシグナル伝達を分子レベルで解明することを目指している。細胞性粘菌では、このシグナルにGAPAと名付けたIQGAP類似タンパク質が関与することを既に明らかにしたので、今年度はGAPAが働くシグナリングに関与する細胞性粘菌のタンパク質の同定を目指して多角的に研究を展開した。 1.GAPAの欠損株と同様に、巨大多核細胞として増殖可能な細胞質分裂変異株の原因遺伝子を1つ同定した。この遺伝子は、4つのイントロンを持ち、328アミノ酸、分子量37kDの新奇タンパク質をコードしていた。今後このタンパク質の分子レベルでの機能解析を行う。 2.GAPAタンパク質のRasGAP触媒ドメイン(GRD)様配列中にある低分子量GTPase結合部位のアミノ酸残基を置換した変異型GAPAは、GAPA欠損株を相補しなかった。このことから、GAPAのGRDと何らかの低分子量GTPaseとの相互作用が細胞質分裂に必須であることが明らかとなった。 3.GST-GARAアフィニティービーズを用いてGAPAと複合体を形成するタンパク質を検索したところ、その複合体には52kD、23kdの未知タンパク質とアクチン、ミオシンが含まれることが明らかとなった。今後2種の未知タンパク質の部分アミノ酸配列を決定してタンパク質を同定する。 4.GAPAと全長にわたり相同性を示す細胞性粘菌のDdRasGAP1とGAPAの2重欠損株は、それぞれの単独欠損株より重篤な細胞質分裂の欠陥を示した。このことから、これら2つのタンパク質は、細胞質分裂に必須な何らかの機能において共通の役割を果たすことが明らかとなっった。
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