研究概要 |
重原子同型置換法により分解能1.4Aで酸性プロテアーゼAの立体構造決定を行うことに成功し、以下のことが明らかとなった。 1)本酵素は従来のペプシン型酵素とは全く異なった立体構造を持っており、その基本構造は2枚の大きな逆平行βシ一トが重なり合って形成されている。 2)得られた立体構造に基づいて分子表面の静電ポテンシャル計算を行った結果、ペプシン型酵素の触媒残基であるアスパラギン酸に相当する機能をグルタミン酸(分子の活性ポケットの中央部に位置している)が担っていることが予想された。 3)ペプシン型酸性プロテアーゼの触媒部位では2個のアスパラギン酸と基質の加水分解反応に必要な水分子がお互いに水素結合を形成していることが知られている。しかし、本酵素にはこのようなペプシン型酵素の触媒残基のもつ水素結合ネットワークは見出されなかった。そのため、本酵素はペプシン型酸性プロテアーゼの特異的阻害剤のDAN,EPNPと反応しないものと考えられる。 4)京都工芸繊維大学の小田らは本酵素と50%程度の相同性を持つスキタリジウム酸性プロテアーゼBの化学修飾の結果を基に、酸性プロテアーゼの中にはグルタミン酸を触媒残基とするプロテアーゼが存在する可能性を示唆していたが、本酵素の立体構造解析の結果、彼らの主張する残基は触媒残基とはなりえないことがわかった。 ペプチドライブラリ法による本酵素の基質特異性の網羅的探索により、以下のことが明らかとなった。 5)本酵素においては、Pl部位でヒスチジンに対する顕著な特異性が弱酸性領域において見られ、P2部位では塩基性アミノ酸残基に対する特異性が見られる。このような基質特異性もペプシン型酵素とは全く異なったものである。
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