研究概要 |
細胞の増殖分化の調節に関わっているホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の産物であるホスファチジルイノシチド-3,4,5-3リン酸(PIP_3)の役割を検討するため、PIP3に特異的なモノクローナル抗体の作製を試みた。合成PIP3を抗原とし,PIP3に反応しホスファチジルイノシチド-4,5-2リン酸に反応しない抗体をリポソームリシスアッセイおよびELISAにより検討したところ、2クローンのPIP3特異的モノクロナール抗体を得た。このうち反応性の高いクローン(AP3#11)はホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピンなどの各種リン脂質には全く反応せず、イノシトール-1,4,5-3リン酸、イノシトール-1,3,4,5-4リン酸、フィチン酸などのイノシトールポリリン酸に対しても反応しなかった。このことからAP3#11はPIP3に特異的なプローブになることが予測された。AP3#11を用いた競合法ELISAによりPIP3の測定を試みたところ、nMオーダーのPIP3を特異的に検出できることが示された。またこの抗体を用いてPC12、MDCK、MKN-7、3Y1などの種々の培養細胞について免疫染色をおこなったところ、いくつかの例でEGFなどの増殖因子刺激依存的に核近傍のmicrotubules organization center(MOC)の付近にクラスター上の染色像が観察された。この結果は、従来細胞膜や、小胞体の膜上で働くと考えられていたPIP3が、生細胞中ではMOCなどで機能している可能性を示唆した。現在、さらに種々条件下でのPIP3の細胞内局在を明らかにするとともに、AP3#11の細胞内マイクロインジェクションによるPI3K下流因子の阻害について検討している。
|