本研究は、ラット腹水肝癌AH109Aより異なる臓器へとリンパ行性転移を示す細胞株を分離し、それらの細胞株において発現パターンの異なっている遺伝子を単離し、その性質を解析することを目的としている。本年度の研究により以下のような実績が得られている。すなわち、肺および腸間膜のリンパ節に転移した細胞を分離する操作を3回繰り返し、肺および腸間膜転移性AH109A細胞株を得た。これらの細胞株の臓器特異性を、転移先臓器由来の細胞である肺由来線維芽細胞および腸間膜由来中皮細胞を用いて検討したところ、肺転移性AH109Aは前者に高い親和性を示し、一方腸間膜転移性AH109Aは後者に高い親和性を示した。しかし、両細胞株を再び皮下移植し、in vivoでの転移能を検討したところ、肺転移性AH109Aは肺特異的な転移パターンを示したが、腸間膜転移性AH109Aは腸間膜特異的とは言えない転移パターンを示した。これは皮下移植による転移モデルでは、脈管系に浸潤した癌細胞が血流によりまず肺へと到達し、その後他の臓器へ向かうという動向を示すため、腸間膜に親和性の高い癌細胞は肺に到達した時点で多くの細胞が生着できず死滅したためと考えられる。次にこれら2種の細胞株において異なる発現パターンを示す遺伝子のdifferential display法による単離を試みた。その結果、現在までに3種のcDNAが得られている。そのうちの一つはmouse capping protein β-subunit isoform 2(CPβ2)と95%以上の高いホモロジーを示したことからrat CP β2そのものであると考えられた。また他の2つは既知の遺伝子とは有意な相同性のない新規遺伝子であった。来年度は、引き続きクローニングを行うとともに、これらの遺伝子の全長cDNAの取得、機能解析を行う予定である。
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