研究概要 |
酵母Saccharomyces cerevisiaeのグルコース抑制・脱抑制機構に関係する新規な制御因子FIL1の単離と特性解析を行った。UPR-ICLの転写の活性化に関与する新たな因子を同定するために、UPR-ICLによる転写の活性化が起きないS.cerevisiaeの変異株を取得した。遺伝学的手法により単一変異株の同定を行った後、その中め一つの変異株である1-56-43株についてS.cerevisiaeの染色体DNAライブラリーを導入し、変異を相補する遺伝子をスクリーニングを行った結果、1種類の相補DNA断片を得た。その断片の塩基配列を決定した結果、YHR038wが相補遺伝子であることを明らかにし、この遺伝子をFIL1(Factors of Isocitrate Lyase expression)と命名した。Fil1タンパク′は原核生物のRibosome Recycling Factorとのホモロジーを有し、そのN末端にミトコンドリアへの輸送シグナルを持っていた。 FIL1破壊株よりミトコンドリア画分を単離し、SDS-PAGEを行った結果、野性株のミトコンドリア画分には存在する一部のタンパクが、FILl破壊株のミトコンドリア画分には存在しないことを示し、またその様子がr0株やクロラムフェニコール(ミトコンドリアのタンパク合成系を阻害する)で処理した株より単離したミトコンドリア画分と類似している事を明らかにした。このことからFil1タンパクはミトコンドリア内に局在し、ミトコンドリア内のタンパクの合成に関与していることが示唆された。次にミトコンドリアの機能がUPR-ICLによる転写活性化に与える影響を調べた。r0株およびクロラムフエニコールやアンチマイシンA(ミトコンドリアの呼吸鎖を阻害する〉を作用させた野生株においてもFIL1破壊株と同様にUPR-ICLの転写の活性化が起きなかったことから、UPR-ICLの転写活性化においてミトコンドリアの呼吸鎖の働きが必須であることを明らかにした。また同様の現象がS.cerevisiae自身の糖新生において必要な酵素遺伝子(ICL1,FBP1)においても見られることを示した。
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