従来造血ホルモンとして知られていたエリスロポエチン(EPO)の脳・神経系における作用を明らかにすることを目的とした。 神経伝達物質としてグルタミン酸は必須の因子である。しかし脳虚血の際には過剰のグルタミン酸が放出される結果、ある種のニューロンはグルタミン酸の興奮毒性により死滅する。これまでにEPOは中枢神経系ではアストロサイトが生産すること、EPOはin vtroにおいてグルタミン酸の毒性によるニューロン死を効果的に防止することを明らかにしてきた。本研究では砂ネズミを用いてin vivoにおいてもEPOがニューロン死を防止するかについて検討した。 EPO又はEPO可溶型受容体を砂ネズミの脳内に投与し、脳虚血に伴うニューロン死への影響を精査した。砂ネズミは、虚血による神経細胞死を解析するのに最適の動物である。砂ネズミに一定の虚血を施すと、1週間後には海馬CA1領域のニューロンの半分は遅発性神経細胞死を起こし選択的に死ぬ。海馬は学習および記憶に重要な組織であり、虚血により海馬の神経細胞が死んだ動物の学習記憶能力は著しく低下する。砂ネズミの学習記憶能力はステップダウン型回避学習実験により判定し、その後海馬領域の神経細胞密度を測定することによりニューロン死保護効果の総合評価を行った。EPOの投与はニューロン死を低滅し、逆に可溶型EPO受容体の投与は内因性のEPOの作用を阻害することによりニューロン死を促進した。これよりアストログリアの生産する内因性のEPO自体が中枢神経系に生理作用を持つことを証明した。
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