植物オキシリピンはリポキシゲナーゼを介して生成する一群の不飽和脂肪酸酸化代謝物の総称である。このうち、短鎖アルデヒド類は極めてユニークな香気を有する香料素材として注目されている一方で、様々な病原体に対し生育阻害活性を示し、また、ファイトアレキシン生成誘導活性をも有する。一方、ジャスモン酸類は、植物の傷害応答シグナル分子として、種々の傷害応答遺伝子の発現を促すことが知られている。この両者の生合成系はリポキシゲナーゼにより生成された不飽和脂肪酸過酸化物を分岐点とし、短鎖アルデヒド類は脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPO lyase)により、ジャスモン酸類はアレンオキシドシンターゼ(AOS)と、引き続く数ステップの反応により生成する。 本研究では、これらオキシリピン生合成系の機能を明らかにするため、カスケード系全体の流れ、およびバランスをよく見極めた遺伝子操作を進めている。これまでにシロイヌナズナからHPO lyase遺伝子を単離し、その、過剰発現、アンチセンス抑制変異体を作出した。一方、リン脂質に直接作用するキュウリ根リポキシゲナーゼ遺伝子の過剰発現系も確立した。現在、これらのフェノタイプを解析中である。また、シロイヌナズナの化学変異体をスクリーニングすることで、オキシリピン生合成系の変異体を3種得た。これらについては、その表現系を生理学的見地から解明するとともに、オキシリピン生合成系のどのステップの変異であるかを解析中である。こうしたことが研究によって、本カスケード系の系全体としての生理的役割が明らかになるばかりでなく、新たなストラテジーによる病原菌耐性付与植物を創製できる可能性も秘めており、今後の進展に期待される。
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