Alcaligenes属細菌A-6株が誘導生産する基質特異性が厳密に異なる3種類のN-アシル-D-アミノ酸アミドヒドロラーゼ、すなわち、D-アミノアシラーゼ、N-アシル-D-アスパラギン酸アミドヒドロラーゼおよびN-アシル-D-グルタミン酸アミドヒドロラーゼの構造と機能に関して、特にその光学異性認識に関わるアミノ酸残基を探索するため、まずは、活性中心を構成するアミノ酸残基の検索を行なった。化学修飾実験の結果から、3種類の酵素はすべて、ジエチルピロカーボネート(DEPC)およびフェニルグリオキサール(PGO)により濃度および時間依存的に失活することから、ヒスチジンとアルギニンがそれぞれ活性発現に深く関与している、すなわち、活性中心に位置するアミノ酸残基であると考えられた。そこで、3つの酵素間で保存されている8つのヒスチジン、12個のアルギニン残基をアスパラギンあるいはイソロイシンに置換した変異酵素を作成して大腸菌において発現させた。各種変異酵素を精製して速度論的諸性質を調べたところ、各酵素間で保存されているAsp-X_1-His-X_2-His-ASp-ASpのうち、前半のHisは触媒に直接関与するアミノ酸残基であり、後半のHisは構造の維持あるいは形成に関与し、必須因子であるZn保持のリガンドしての役割を担っている可能性が示された。また、アルギニン残基については、D-アミノアシラーゼにおいて、296、302、377番目のアルギニンが構造形成あるいは維持に重要な役割を果たしている残基であることが明らかとなった。現在、D-アミノアシラーゼのX-線結晶解析のための結晶化を行なっている。
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