ミジンコ類は血リンパ中のヘモグロビン量を増加させ溶存酸素濃度の低下に適応する。このヘモグロビンを構成するサブユニット鎖は2つのヘム結合部位からなる2ドメイン構造をもつ。この特徴的なヘモグロビンの構造と機能の解明及びその分子進化的考察を試みた。 オオミジンコより精製したヘモグロビンを二次元ゲル電気泳動により6種類のサブユニット鎖に分離し、サブユニット鎖のN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、4種類のサブユニット鎖の存在が明らかとなった。新たに2種類のサブユニット鎖cDNAを単離して塩基配列を決定した。既に塩基配列の決定しているサブユニット鎖を含む3種類のサブユニット鎖のアミノ酸配列を比較した結果、これらサブユニット鎖間の相同性は80%以上であるが、各々のサブユニット鎖内の2つのドメイン間の相同性は共通して低い(約20%)ことが判明した。またこれらのN末端には1残基のValに隔てられたThrクラスター数個を含む配列が共通して存在した。上記の3種類のサブユニット鎖cDNAの部分配列からDNAプライマーを作成し、PCRによる染色体歩行を行った。その結果、4種類のサブユニット鎖遺伝子が同一染色体上に隣接して存在することが判明した。次に、各サブユニット鎖遺伝子の5'及び3'非転写領域を含むDNA断片をPCRにより増幅し、その塩基配列を決定した結果、3つのサブユニット鎖遺伝子は7つのエキソンと6つのイントロンからなり、各イントロンの位置が3つの遺伝子間で一致していた。また、サブユニット鎖内のドメイン間のイントロンの位置が一致することも明かとなった。以上の結果より、単ドメインサブユニット鎖遺伝子の重複は2ドメインサブユニット鎖遺伝子の多重化以前に起こったものと考えられ、種々の無脊椎動物ヘモグロビンを対象とした系統樹解析の結果もこの考えを強く支持した。
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