小腸上皮細胞に発現するアポリポタンパク(アポ)A-IVは、食餌脂質の輸送や中枢神経系を介した食欲・消化管機能調節に関与することが示されている。食餌脂質や胆汁成分が小腸上皮細胞におけるアポA-IV発現を刺激することが知られており、そのような作用に消化管ホルモン等の体液性因子が関与することを示唆する知見が報告されている。そこで本研究では、小腸上皮細胞におけるアポA-IV遺伝子発現に関与する小腸由来体液性因子を主として細胞培養系を用いて探索し、アポA-IV発現制御機構に関する新知見を得ることを目的とした。 ヒト結腸ガン由来細胞株Caco-2ならびにラット小腸上皮細胞株IEC-6のアポA-IV mRNA発現をRT-PCR産物のサザン解析により検討したところ、微量ながらアポA-IV mRNAの発現を確認できたが、従来これらの細胞の分化を誘導するとされている細胞外マトリクスやTGF-βはその発現を刺激しなかった。消化管ホルモンであるペプチドYY(PYY)がラット小腸のアポA-IV合成をin vivoで増加させるという報告がなされたので、現在PYYがCaco-2やIEC-6のアポA-IV遺伝子発現に及ぼす影響についてRT-PCR産物のサザン解析により検討している。 一方、体液性因子とは別に神経系も小腸上皮細胞におけるアポA-IV遺伝子発現の調節に関与するのではないかと考え、動物実験により予備的な検討を行った。即ちラットに神経節遮断薬であるヘキサメトニウムを静脈内連続注入したところ、遠位小腸におけるアポA-IV mRNAレベルが著しい減少を示した。一方、近位小腸での変化は見られなかった。この結果は小腸におけるアポA-IV遺伝子発現が部位特異的な自律神経支配を受けることを示唆しており、この現象についても詳細に検討していく予定である。
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