研究概要 |
食品アレルギーの発症機構の解明,またその予防・治療法の開発には経口投与された抗原に対する免疫応答,特に抗体産生応答の制御メカニズムの解明が重要である.このような応答にはT細胞が重要な役割を果たす.そこで本研究では卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞抗原レセプタートランスジェニックマウス(TCR-Tg)を用いて経口投入抗原に対するT細胞応答を抗体産生応答の制御に注目して解析した. OVA特異的TCR-TgにOVAを飼料中の成分として投与すると、脾臓にTh2型サイトカイン産生パターンのT細胞が誘導された.Th2細胞はB細胞の抗体産生を介助することが知られているが,in vitro抗体産生系においてOVAを経口投与したTCR-TgマウスのT細胞の抗原産生誘導能は弱かった.抗原産生応答におけるT細胞の役割は,B細胞ヘサイトカインを供給する他にCD40L等の細胞表面分子からの刺激がある.そこでOVAを投与したTCR-Tg,OVAを経口投与していないTCR-TgのT細胞(未感作T細胞)をそれぞれ抗原で刺激した際のCD40L分子の発現誘導を検討した.その結果,未感作T細胞はCD40L分子の強い発現が認められたのに対し,OVAを経口投与したマウスのT細胞はほとんど発現しなかった.これらの結果より,抗原の経口投与により誘導されるTh2様サイトカイン産生を持つT細胞は,典型的Th2細胞とは異なりヘルパー機能を欠き,その原因はCD40L分子発現の弱さであること示唆された. 一方でOVA特異的TCR-Tgに大量のOVAをゾンデで複数回経口投与すると脾臓T細胞の増殖能が低下した.この現象は,食品アレルギーの抑制機構の一つと考えられる経口免疫寛容現象(タンパク質抗原を経口的に投与するとその抗原に対する免疫不応答となる現象)に相当する.現在,このマウス由来のT細胞内のシグナル伝達について解析中である.
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