種子貯蔵タンパク質は、生合成過程において限定分解を受けて前駆体より成熟化する。 本研究ではイネ種子において限定分解を担うと考えられるアスパラギン残基特異的なプロテアーゼ(asparaginyl endopeptidase;AEP)の性質について検討した。 まず、イネ種子AEPのcDNAを用い、組み換えAEP前駆体タンパク質を大腸菌により大量発現させた。その結果、このタンパク質は不溶性となり、酵素化学的性質をしらべることは困難であった。そこで、不溶性発現タンパク質の可溶化・再構成を試みた。その結果、0.7%ザルコシンにより可溶化し、その後還元型および酸化型グルタチオンの存在下で透析を行ってザルコシンを除くことにより、可溶性の組み換え体を得た。 次に組み換え体の酵素活性を検討した。基質として、イネ種子の主要な貯蔵タンパク質であるグルテリンのプロセシング部位周辺の配列GCPNGLDETFのペプチドを用いた。このペプチドを組み換え前駆体タンパク質とインキュベートし、生成物をHPLCで精製した後、その構造をしらべた結果、生成物はGCPNとGLDETFであった。このことからイネ種子AEPは自己触媒的に活性を有する成熟型酵素となってアスパラギン残基のC末端側を切断することが明らかとなった。また実際にイネ種子においてグルテリンの成熟化に関与していることが強く示唆された。 さらにノーザン分析によりmRNAの発現状態を観察したところ、イネ種子AEPは種子の登熟・発芽の両過程にわたって発現していることが確認された。またRT-PCRによるクローニングの結果、イネ種子にはこれまで解析してきたものとは一次構造の異なる、新たなAEPmRNAが発現していることも明らかとなった。
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