疲労したラットの脳脊髄液には、これをマウスの脳内に投与したときその自発行動を抑制する活性があるが、疲労していないラットの脳脊髄液にはこのような活性は存在しない。この活性は疲労した感覚の生成に関与していると考えられる。ヒドラを用いたバイオアッセイにより、この活性の本体がTGF-betaであることが予想された。 H9年度には以下の事実を明らかにした。 1.マウスの行動実験 a)TGF-betaがマウスの自発行動に及ぼす影響 TGF-beta単体をマウス脳内に投与すると、vehicleに比べその自発行動量が投与量依存的に有意に滅少した。 b)抗TGF-beta抗体で処理した疲労ラット脳脊髄液 本来マウスの自発行動量を減少させる活性が存在するはずの、疲労したラットの脳脊髄液を、抗TGF-beta抗体で処理し、マウスの脳内に投与すると、マウスの自発行動量を減少させる活性が消失する。 以上のことから、TGF-betaそのものがマウスの自発行動量を抑制する活性を持つ事が明らかとなり、疲労したラットの脳脊髄液中にTGF-betaが存在していることが示唆された。 2.ヒドラによるバイオアッセイ a)TGF-betaスーパーファミリーの他のメンバーの作用 TGF-betaには構造の類似したスーパーファミリーが存在する。このようなファミリーのメンバーで、TGF-betaと同様の反応を引き起こすものがあるかどうかを調べた。代表的なメンバーとして、アクチビン、インヒビン、BMP4、GDNFについてヒドラの応答を比較したが、いずれもTGF-betaとは異なる応答パターンを示し、疲労したラット脳脊髄液に存在する物質とは違うことが示された。
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