卵白の貯蔵中に、その食品機能特性が低下する原因の一つに、主成分であるovalbumin(OVA)が熱安定性の高い分子種、S-OVAに変化することが挙げられているが、その分子機構については明確にされていない。本研究では、その分子機構を明らかにし、タンパク質全般の熱安定化原理の究明に資することを目指し、S-OVA分子の構造特性を見い出すことを目的とした。 1)変性状態からの構造回復実験(Renaturation) OVAからS-OVAへの変換機構について、米国Huntingtonらは、一次構造上350番付近のループ部分が分子中央に位置するβ-シートに割り込む高次構造変化が熱安定化の原因であると報告したが、これを検証するためにOVAを尿素により変性させ、尿素を希釈することにより構造の回復を促し、生じた分子種の構造安定性をマイクロカロリメトリーにより評価した。その結果、OVAはRenaturation操作によっても、より安定なS-OVAとならず、両者の化学構造が異なっていることが明らかとなった。 2)大腸菌分泌発現タンパク質の熱安定化 ニワトリ輪卵管における生合成時と対比して、翻訳後修飾の起こらない大腸菌発現系において、ペリプラズムへの分泌が確認できた。この画分は、タンパク質の変性を引き起こす可能性のある劇的な操作を必要としないため、各分子種の安定性を解析する本研究において、有効なシステムが構築できた。この画分の組み換え型OVAも、卵白のものと同様の操作で熱安定化することが判つた。 3)各種OVA誘導体の単桔晶の調製 X線結晶構造解析のために各種OVA誘導体単結晶の調製を試みた。24穴培養プレートを用いたハンギングドロッブ蒸気拡散法による結晶化を試みた結果、OVA、S-OVAについて、板状の結晶を得たので、次年度はX線回折実験を行う計画である。
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