北方林を構成する代表的な樹木のひとつであるカラマツ属の分類については、アジア東岸において変異が著しいために統一的な見解に至っていない。この地域におけるカラマツ属の遺伝的な構成を解明する糸口を得るために、形態とDNAの比較を行った。 中国東北部においてカラマツの針葉を採取し、これから得たDNAを41種類のランダムプライマーによって増幅した産物を比較することで個体間の類似度を検出した。各個体から球果と針葉を採取し、球果長、球果幅、種鱗長、種鱗数や針葉長などの形態を調べた。 大興安嶺、小興安嶺、長白山系東北部と長白山の4つの山域から採集されたカラマツのDNA分析の結果、ダフリアカラマツとマンシュウカラマツの2グループおよびその中間的なグループとに分かれた。すなわち、ダフリアカラマツであるとされる大興安嶺と小興安嶺のカラマツはひとつのクラスターを示し、マンシュウカラマツとされる長白山のクラスターと分かれた。また、マンシュウカラマツとされる長白山系東北部のカラマツのクラスターは長白山のものから若干分かれた。したがって、長白山系東北部のカラマツは、マンシュウカラマツとは異質なものである可能性が高いことが判明した。しかし一方で、これらのクラスター間の差は比較的小さいこと、球果をはじめとする形態変異が地域間よりも地域内において大きかったことなどから、中国東北部におけるカラマツ属の種分化はそれほど進んでいないことが示唆される。
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