沖縄島、久米島、宮古・伊良部島、西表島の計11カ所から分離された、メヒルギ枝枯性病害の病原Cryphonectria sp.11菌株(以下、CKc)と日本産のCryphonectria 属5種(以下、CJp)の諸形質を比較検討した。 病原性及び宿主範囲については、CJpのうちC.nitschkeiがメヒルギに病原性である可能性を示唆したが、他の4種はメヒルギに非病原性であった。CJpの宿主として知られるクリ、コナラ、シラカシ、イヌシデ、ハンノキに対しては、CKcのいずれの菌株も非病原性だった。 麦芽寒天平板培地上の培養菌叢については、CKcは、扇状菌糸を活発に形成する、分生子子座が早期に形成され同心円状に分布するなどの特徴で、CJpのいずれとも異なっていた。また、温度と菌糸の成長速度の関係でも、CKcはCJpのいずれとも類似が認められなかった。 自然条件下で形成されたメヒルギ枯死枝上のCKcの子座を解剖し、顕微鏡下で子嚢、子嚢胞子、分生子の形態を計測したところ、そのいずれについても記載が一致または類似する種はCJpにはなかった。 以上の結果から、CKcは日本未記録種か新種の可能性があるものと考えられた。 一方、CKc菌株間の病原性の変異と、メヒルギの集団間の感受性の差異を検討した。CKcは菌株間に病原性の違いが認められたが、菌株の病原性と菌株採取地の本病被害の程度には、関係は認められなかった。一方、本病罹病率が顕著に異なるメヒルギ林から採取した苗への接種試験では、本病への感受性に明瞭な差異は認められなかった。これらの結果から、本病被害には、宿主や病原の遺伝的要因のみならず、環境要因が大きく関与しているものと推察された。
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