セルロースミクロフィブリル(CMF)の堆積方向や堆積場所は、植物細胞の形態を決定する上で、重要な要因である。CMFの配向は、これまでの多くの報告から、細胞骨格である表層微小管が制御していると考えられている。一方、表層微小管自体の配向や局在がどのように制御されているかについては知見が充分ではなく、培養細胞を用いたモデル実験の結果からアクチンフィラメントの関与が示唆されているが、よりインタクトな植物細胞において表層微小管とアクチンフィラメントが密接な関係を保ちながら、共に配向や局在を変化させるという実験的な証拠は得られていない。そこで本研究では、針葉樹分化中木部細胞におけるアクチンフィラメントや表層微小管の配向や局在を、間接蛍光抗体染色法と共焦点レーザ顕微鏡法を組み合わせて連続的に観察した。観察には、アカマツおよびイチイの樹幹試料を用いた。 分化中仮道管内のアクチンフィラメントは、太い束状の形態をもち、細胞内での分布密度は粗であった。配向性は良くなく、折れ曲がって見えるものも認められた。アクチンフィラメントは、形成層細胞においては仮道管軸に対してほぼ平行に配向し、細胞拡大帯(一次壁形成中)から二次壁形成中の仮道管においてもその主配向は変化せず、仮道管軸に対してほぼ平行であった。さらに分化が進んだ仮道管では、ランダムながら仮道管軸に対して水平方向に配向するアクチンフィラメントも認められた。これらの配向は、仮道管分化中に連結的に変化する表層微小管の配向とは異なっており、アクチンフィラメントと表層微小管の配向に直接的な関連性は認められなかった。一方、束状のアクチンフィラメントより細く短いアクチンフィラメントが細胞全体に存在していた。形成中の壁孔領域では、配向性をもたないアクチンフィラメントの集合体が観察され、一方表層微小管は壁孔縁に沿って円形の束を形成し円形の束の内側では表層微小管が認められないことから、アクチンフィラメントの集合体が表層微小管の局在を制御している可能性が示唆された。
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