本研究では、木材組織中のMnがP.chrysosporiumのリグニン分解系におよぼす影響を明らかにすることを目的として、材中のMnの存在形態と有機酸含量について検討するとともに、液体および木粉培地における不溶性Mnの蓄積量と各種酵素活性との関係を調べた。原子吸光分析の結果、試料木粉の全Mn量のうち水可溶性のものは4割近くを占めた。また、水抽出液中にはMn(III)のキレート剤となる有機酸も著量存在し、木粉中のMnおよび有機酸はいずれも相当量が培養過程で溶出してリグニンパーオキシダーゼ(LiP)およびMnパーオキシダーゼ(MnP)活性に影響を及ぼすと考えられた。さらに、木粉培養における不溶性Mnの蓄積はほとんど認められず、LiP活性も検出されなかった。一方、液体培養においては有機酸無添加培地中のMnが培養5日目で50%以上MnO2へ酸化されたのに対し、Mnをマロン酸とともに添加した場合には10%以下であった。この結果から、有機酸-Mn(III)複合体の形成によるキレート安定化がMnO2の菌体への沈着の抑制に寄与していることが定量的に明らかとなった。また、木粉中に存在の認められた有機酸の混合物を培地に添加した場合においても同様の結果が得られた。しかしながら、いずれの培養条件においても最終的には著量のMnO2の沈着が認められ、同時にLiP活性の発現が観察された。木粉培地の培養気相を100%O2に置換して培養を試みたところ、液体培地を凌ぐMnP活性が認められたにも関わらず、不溶性Mnの蓄積およびLiP活性はともに認められなかった。このことは木粉培地でのMnイオンの不溶化抑制作用が有機酸によるキレート形成のみならず、別の機構によりなされていることを示唆した。
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