研究概要 |
3種類の製紙用クラフトパルプ(針葉樹未晒クラフトパルプ,広葉樹未晒クラフトパルプ,酸素前漂白した広葉樹未晒クラフトパルプ)を塩素漂白して塩素化パルプを調製した。充分に水洗いした塩素化パルプから、50〜60%含水ジオキサンで高分子有機塩素化合物を抽出・単離した。これまでに行った各種性状分析から、この高分子有機塩素化合物は、クラフトパルプ中に残存するリグニンの芳香核が塩素により酸化的な開裂を受けて生じるムコン酸型の構造、あるいは、その2重結合に塩素・塩酸・次亜塩素酸・水などが付加した構造を主体としているとの推測を行ってきた。また、この高分子有機塩素化合物はアルカリ処理(70°C)とすると、様々な低分子化合物を生じるという結果も得ている。今回は、アルカリ処理により生成する低分子化合物のうち量的に多いものを中心に、^1H-NMR,イオンクロマトグラフ(検出器:電気伝導度)等で固定・定量した。その結果、3種類の塩素化パルプから単離された高分子有機塩素化合物の全てが、アルカリ処理により酢酸・ギ酸・グリコール酸・二酸化炭素を生成することが認められた。これらの低分子化合物がパルプ・製紙工場の排液に含まれることは、既に多くの研究者から報告されているが、その起源物質については明確でなかった。今回の実験結果から、リグニンが塩素により冒頭で述べたようなポリカルボン酸型の構造に変化している考えると、アルカリ処理により上記4種の低分子化合物が生成されることが合理的に説明できる。しかし、確認された低分子化合物は、全体のごく一部であり、その他のものについても分析する必要度が大きい。現在、有機酸以外の低分子化合物を高速液体クロマトグラフ(検出器:UV-VIS)を用いて同定・定量するための予備実験を進めている。
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