研究概要 |
リグニンの生合成における酵素と基質の関係を明確にするため,酵素としてホ-ソラディッシュペルオキシダーゼ(HRP),基質としてリグニン前駆体であるp-ヒドロキシクマリルアルコール(HL),コニフェリルアルコール(GL),シナピルアルコール(SL)を用いて,反応を追跡した。これらのリグニン前駆体は,メトキシル基の数がそれぞれ0,1,2であり,メトキシル基の数の違いによる反応性の相違について詳しく検討した。 まず,反応の初期段階である酵素と基質の結合定数を測定したところ,HL>GL>SLであった。これら3種のリグニン前駆体の疎水性をオクタノール/水の分配係数から求めたところ,酵素に対する結合定数と基質の疎水性には相関関係があり,反応の初期段階では基質の疎水性が関与していると推察した。また,メトキシル基をメチル基に変換し,分子サイズはほぼ等しいが疎水性が異なるものと比較したところ結合定数の差異が観察され,分子サイズが異なるが疎水性がほぼ等しいメチル基変換したものと官能基が無い物を比較したところ差異は観察されなかった。このことから,初期段階では分子サイズよりも基質の疎水性が反応に大きく影響を与えるものと推察した。 反応の後期段階である基質の消失速度を測定したところ,HL>>GL>>SLであった。一方,通常の酸化剤である塩化第二鉄を用いた反応速度は,酵素での反応速度とは逆にHL<GL<SLであった。塩化第二鉄での反応速度は,基質の酸化還元電位から見積もった反応速度と一致し,酵素の基質特異性が明瞭に観察された。また,基質濃度が希薄になると,反応の律速段階が酵素と基質の結合速度になった。これらのことから,反応全体に対する基質特異性には基質の分子サイズが影響しているとも考えられるが,前述の疎水性が大きく影響していると考えられる。
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