クラフト蒸解におけるグルコマンナンおよびキシランの挙動の可視化 クラフト蒸解におけるグルコマンナンおよびキシランの挙動を調べるため、様々な蒸解段階におけるこれら多糖のクロマツ細胞壁中での分布を免疫光学顕微鏡法によって可視化した。蒸解前の細胞壁中では、グルコマンナンは二次壁全体に分布し、一方キシランは二次壁の細胞内腔側に分布し、これら多糖の分布が異なることが示唆された。グルコマンナンの分布は、蒸解開始20分後では蒸解前と比較してほとんど変化しなかった。40分および60分後では、グルコマンナンは二次壁の細胞内腔側に分布した。この結果は、クラフト蒸解においてグルコマンナンが薬液の浸透および拡散に伴って、二次壁の細胞内腔側に移動し、濃縮され、溶出する過程を示す。キシランは、いずれの蒸解段階においても二次壁細胞内腔側に分布した。したがって、蒸解における細胞壁中での移動は明確ではないが、キシランが細胞内腔へ溶出することが示された。この手法によって、クラフト蒸解におけるグルコマンナンおよびキシランの溶出挙動を可視化することができた。 マウスを用いた抗キシラン抗体および抗グルコマンナン抗体の調製 これまでに樹木細胞壁から単離精製されたキシランおよびグルコマンナンをウサギに投与することによって各多糖の抗体を調製することができた。今回、マウスを用いて抗体の調製を試みた。キシランを投与したマウス血清を検査した結果、抗キシラン抗体の産生が確認された。この抗体を免疫光学顕微鏡法に適用した結果、顕微鏡瀬切片は免疫染色されず、分布を可視化することができなかった。単離精製においてキシランの化学構造が変化し、これを用いて調製された抗体が、細胞壁中のオリジナルなキシラン構造を認識することができなかったと考えられる。グルコマンナンを投与した場合、抗グルコマンナン抗体の産生は確認されたが、認識選択性が良好ではなかった。グルコマンナンは化学構造上、抗原性が低く、抗体の調製が困難であると考えられる。
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