研究概要 |
硬骨魚類の耳石は、年齢、日齢査定形質として水産学研究に必要不可欠な硬組織である。にもかかわらず、年輪・日周輪形成メカニズムはいまだに解明されていない。本研究は,耳石日周輪形成メカニズムを、主に耳石有機基質の産生メカニズムから解明しようとするものである。本年度は昨年度に引き続き、以下の諸点を明らかにした。 1. 抗耳石可溶性基質抗体を用いた透過型電顕組織化学を昨年に引き続き行い、移行上皮細胞・扁平上皮細胞における耳石可溶性基質産生機構およびその耳石への取り込み機構を明らかにした。可溶性基質は産生後、移行上皮細胞では小型の、扁平上皮細胞ではより大型の分泌小胞中に保存された後、エクソサイトーシスにより内リンパ液中へと分泌される。分泌された可溶性基質が内リンパ液中から耳石へと取り込まれていく様子も観察された。 2. 小嚢上皮・耳石のレクチン組織化学法および、耳石可溶性基質・内リンパ液のドットプロット法により、小麦胚芽、コンカナバリンAおよびインゲンマメレクチンに反応するN一結合型糖鎖を含む物質が感覚細胞および支持細胞から耳石膜を介して、あるいは移行上皮細胞および支持細胞から内リンパ液を介して耳石に取り込まれることを明らかにした。 3. ニジマス耳石割断面を走査型電子顕微鏡で詳細に観察したところ、小石状、平板状、球状など様々な結晶構造が観察された。現在、これらの構造がすべてあらゴアナイトからできているのか、他の結晶系(カルサイトなど)が混在しているのか、X線回折を行うべくサンプルを準備中である。それと平行して耳石可溶性基質抗体を用いた免疫組織化学を走査型電顕上で行うべく技術開発中である。 以上の結果は、タンパク質に加えて糖質、たぶん糖タンパク質が耳石形成に重要な機能を果たしていることを示唆する。今後耳石基質タンパク質や糖鎖の構造を明らかにし、その機能を解明する必要がある。
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