寄生組織および宿主特異性が異なる3種類の粘液胞子虫の放線胞子を蛍光色素(CFSE)で標識してから数種類の供試魚に浸漬感染させた後、パラホルムアルデヒド固定して体表、鰭、鰓などにおける胞子原形質の侵入を蛍光顕微鏡で調べた。その結果、放線胞子の形態的違いによって魚への侵入部位が異なることがわかった。すなわち、Mvxobolus cultusのラーベイア放線胞子は体表および鰭から、Thelohanellus hovorkaiのオ-ランチアクチノミクソン放線胞子は鰓から、M.arcticusのトリアクチノミクソン放線胞子はいずれの部位からも侵入した。さらに、T.hovorkaiのニシキゴイへの侵入過程を経時的、定量的に追跡した結果、浸漬30分後に鰓への侵入数がピークに達し(27cells/gill)、以降、見かけ上減少して60分後には検出できなくなった。これは、30分以後、胞子原形質が分裂増殖して蛍光が褪色する、あるいは寄生体が血流などに乗って他に移動した可能性を示唆する。また、30分以後新たな侵入がないこと、浸漬する胞子数に比例して侵入する胞子数が増加するわけではないことなど、放線胞子の魚への侵入に関する動態の一部が明らかになった。 また、in vitroの実験においてT.hovorkai放線胞子を蛍光カルシウム指示薬Fura2-AMで染色して蛍光分光光度計で測定する方法により、コイ体表粘液との接触で誘導される放線胞子の原形質放出に伴い、細胞内カルシウム量が増加することが示された。これより、粘液胞子虫の感染メカニズムの解明に細胞生理学的アプローチが可能になった。
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