研究概要 |
サケ科魚類の神経系に寄生する粘液胞子虫Myxobolus arcticusと、コイの結合組織に寄生するThelohanellus hovorkaiについて、宿主特異性の発現メカニズムをin vivoとin vitroにおける実験系により調べた。in vivo感染実験は、各粘液胞子虫の放線胞子を蛍光色素CFSEで標識してから感染させ、攻撃試験直後に固定して侵入した胞子原形質を蛍光顕微鏡で検出・計数した。その結果、M.arcticusの場合は感受性魚種のサクラマスにも非感受性のベニザケにも同程度侵入したが、最終的にはベニザケでは胞子形成に到らなかった。一方、T.hovorkaiの場合は、感受性のコイには侵入したが、非感受性のキンギョには侵入がほとんどみられなかった。In vitroにおける実験では、各種魚類の体表粘液を採取し、粘液中の含有タンパク量を数段階に設定して放線胞子と接触させた後、胞子原形質離脱率を測定した。その結果、T.hovorkaiはコイとキンギョのどちらの粘液に対しても反応したが、反応が起こるタンパク量の閾値に大きな差があった。すなわち、コイの粘液ではタンパク量16μg/mlでも反応したが、キンギョの場合は600μg/mlでないと反応しなかった。さらに、放線胞子が粘液中のどのような糖鎖を認識するのかを調べるため、粘液に各種レクチンを添加してから胞子と反応させる方法を標準化した。 以上より、T,hovorkaiは、放線胞子の侵入時点において魚の体表粘液中のある種の特異的糖鎖構造を認識してコイに選択的に侵入することがわかった。一方、M.arcticusの場合は、侵入時点では魚種に非特異的であったことから、感染後の発育過程で適合魚種とそうでない魚種との間に違いが出てくると推察された。
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