申請者らはすでに培養下でコイの造血が再現可能な系を確立している。すなわち、コイの主要な造血臓器である腎臓より細胞を分離・培養したところ、間質由来と考えられる支持細胞層の形成が認められ、これら支持細胞上で1ヶ月以上にわたって活発な細胞増殖が観察された。これら培養下で増殖した細胞の性状を抗-コイIgMモノクローナル抗体や電子顕微鏡を用いて調べたところ、異なった分化段階のBリンパ球または好中球系細胞が確認され、本培養系は魚類の造血モデルとして有用であることがわかった。本研究では、ステロイドホルモンが魚類造血に与える影響を調べることを目的として、hydrocortisone、estradiol-17β、testosteroneなどのホルモンを本培養に添加し、その効果を測定した。 上記培養にhydrocortisoneを0〜3X10^<-8>Mになるように添加し培養したところ、hydrocortisoneは好中球造血に促進的に働くことがわかった。すなわち、培養下で増殖した細胞を回収し、perxidase(Per)染色後、Per陽性細胞の割合を求めたところ、0〜3X10^<-8>M添加培養において、Per陽性率は6.5〜8%と低く、Per陰性で幼若な形態をした細胞が優勢に増殖していた。一方、10^<-7>、3X10^<-7>および10^<-6>M添加培養では、それぞれPer陽性率は、8、30および69%とハイドロコーチゾン濃度が高くなるにつれて陽性率も高くなり、そして3X10^<-6>Mでは74%と10^<-6>Mとあまりかわらなかった。また、Per陽性の分裂細胞数(Per分裂指数)を求めたところ、Per陽性率と同様10^<-7>〜10^<-6>M間で濃度依存性に増加する傾向が認められた。一方、エストラジオール、テストステロン添加培養では、hydrocortisoneのような好中球系細胞に対する効果は認められなかった。以上のことから、hydrocortisoneは好中球の増殖に促進的に働く効果があり、コイの生理的濃度である10^<-7>〜10^<-6>Mの間で濃度依存性に作用することがわかった。 同様の培養で、Bリンパ球造血に与える効果を調べたところ、hydrocortisoneを添加してない培養では、細胞表面免疫グロブリン陽性細胞が約1%観察されたが、10^<-7>M添加培養ではslg陽性細胞はまったく認められなかった。また、培養液中のhydrocortisone濃度をできるだけ低下させるため、培養液に加えるコイ血清をあらかじめ活性炭処理し、培養に用いたところ、slg陽性細胞は10%と著しく高く、ハイドロコーチゾンはBリンパ球造血に抑制的に働くことが明らかとなった。現在、estradiol-17βおよびtestosterone添加培養においても、同様の測定を行っている。
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