日本産アワビ類主要4種において、1970年代以降、漁獲量の一貫した減少傾向が見られている。また同時に人工放流個体の漁獲量に占める割合(混獲率)が増加傾向にある。種々の原因調査がなされてきたが、未だ明らかでない。 そこで漁獲量の減少と混獲率の増大が著しい海域(A海域)とそうでない海域(B海域)から、マダカアワビを毎月購入し、その生殖巣組織標本の作製と含有される有機スズ化合物の化学分析を行なった。生殖巣組織標本はブアン固定/パラフィン包埋/HE染色により作製し、有機スズ含有量の化学分析はプロピル化/GC-FPD法により行なった。 両海域から採集されたマダカアワビ試料について、A海域のものでは混獲率が平均で約90%と高かったのに対し、B海域のものでは平均で約10%であった。またその生殖巣の外部形態にも違いが見られ、B海域の試料個体では牛の角のように細長く伸びていたが、A海域のものでは短くいびつであった。卵巣と精巣の成熟過程をそれぞれ5段階(放卵/放精終期、回復期、前成熟期、成熟期及び放卵/放精期)に分け、それぞれの出現状況を調べたところ、B海域のものでは雌雄が短期間にしかも同時に成熟していたが、A海域のものではB海域のものに比べてかなり長期にわたって成熟個体が見られ、またその盛期が雌雄で一致していなかった。さらに雌において未成熟個体が周年観察され、精巣を形成していた個体も見られた。体内の有機スズ含有量は、ブチルスズ及びフェニルスズともに、A海域のものでB海域のものより高い傾向があった。
|