群体性微細緑藻Botryococcus brauniiは乾燥重量の数10%におよぶ大量の液状炭化水素を生産することが知られており、エネルギー源としての利用が考えられている。この微細緑藻は、生産する炭化水素の種類によりA、B、Lの3品種に分けられる。B品種はボツリオコッセンと呼ばれるトリテルペンの他に、スクアレンも生産するためエネルギー源としてだけではなく、化粧品 などの原料としての利用も可能である。本品種によるスクアレン生産に関する基礎的知見を得るために、特にスクアレン生産能の高いKawaguchi-1株について、細胞間マトリクス内に存在する未同定脂質の単離、構造決定を行ったところ、テトラメチルスクアレンエポキシド、ブラウニキサンチン等の幾つかのスクアレン関連物質の存在を確認した。テトラメチルスクアレンエポキシドはすでに他のB品種の1株からその存在が報告されているが、本研究により本物質がB品種に普遍的に存在することが示された。テトラメチルスクアレンエポキシドは、その構造からボツリオキサンチン等の脂質の形成に関与すると考えられた。 ブラウニキサンチンは、ケトカロテノイドであるエキネノンと、テトラメチルスクアレン誘導体と長鎖アルキルフェノールがエーテルを介して結合した、全く新しい構造を持つ脂質であった。この物質はボツリオキサンチン等と比べ化学的に安定な構造を有しており、更に重合していくことも可能なことから、本藻種の群体形成に関与している可能性が示された。これらの結果からBotryococcus brauniiのB品種は、スクアレンをボツリオコッセンの副産物としてではなく、群体構造の構築のために積極的に生産している可能性が示された。
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